闘わなきゃLooser!

特技:ジャンルの反復横跳び

10年前に観たミュージカルの話をしよう

宇宙戦艦ヤマトで人生の歯車が狂い、ガンダムと共に歳を重ね、そしてアーケード版からTHE IDOLM@STERを始めて今日も元気にアイマスPをしている父の言葉で下記がある。

「オタクとそうじゃない人の違いは、10年前に観たアニメを昨日観たかのように喋れるかどうかだ」

幼少期がアニメ「カードキャプターさくら」の放送時期とぶつかってしまった(今思えばあれは父が意図的に"見せた"んだと思うけど)私も必然的にオタクとして育ち今日も楽しく大騒ぎしているが、同じオタクとして上記の父の言葉はなかなか核心を付いているなと実感することが多い。

(余談:オタクは10年前のアニメを昨日観たかのように喋れるとは思うけど、そうじゃなくて文字通り10年前のアニメを昨日観返しているパターンもそこそこあるから面白いよね)

前置きが長くなってしまったけれど、私もオタクの端くれとして10年前に観たミュージカル、正確に言うと2009年12月〜2010年1月の公演なのでもう12年前になるミュージカルの感想を昨日観てきたかのように喋りたいと思う。


シアタークリエ公演「SHE LOVES ME」

当時の私は中学生で「学校に自分よりジャニーズに詳しい人がいなくてつまらん」という理由でぶーたれているジャニオタだった。インターネットランドと出会えてよかったね、自分よりジャニーズ詳しい人なんて星の数程見つかるよ。
担当はKis-My-Ft2二階堂高嗣くん。1番好きなのはキスマイだったけど、当時は何かと「エビキス」とA.B.C-ZKis-My-Ft2がセットで組まれる世界線だったので当然のようにA.B.C-Zも応援していた。

そんな中発表されたミュージカル「SHE LOVES ME」、Hey!Say!JUMPの薮宏太くんが主演でA.B.C(当時はっしー加入後のはずだけどフライヤーにはZ付いてないななんでだろう)の4人が2,2に分かれて役替りという配役だった。

私はMステの階段を降りる知念侑李くん(13歳)をうっかり見てしまったのがジャニーズに狂わされるきっかけだったので、Hey!Say!JUMPもすごく大切なグループで。薮くんにもえびのメンバーにも会えるなんて最高!行きたい!と思ったが、中学生のお小遣いでクリエのチケ代がぽんと出せるわけもなく、母にチケット代をねだってなんとか1公演確保した。

ヒロイン役は神田沙也加さん。どんな人だろうと母に聞くと、あぁこないだレミゼでコゼットやってた子ね〜上手だったよ〜松田聖子の娘って聞いてびっくりしちゃった、とのこと。松田聖子さんは正直世代ではないためよくわからなくて、ふ〜んきっと神田さんはお歌が上手なお姉さんなんだろうなぁ〜くらいの想いで劇場に足を運ぶ。今思うけど母上もよく「神田沙也加のコゼット」を観てたなすごいな。

初めてのシアタークリエにわくわくしながら幕が上がる。「SHE LOVES ME」のストーリーとしては、香水店に勤めるジョージ(演:薮宏太)はまだ見ぬ文通相手にひっそりと想いを寄せる青年で、新しい仕事仲間としてやってきたアマリア(演:神田沙也加)とは馬が合わず日々口喧嘩ばっかり。そんな中、初めて会う約束をした文通相手との待ち合わせ場所にいたのはまさかのアマリアで……!??──というハッピーラブコメ。こういうのだよこういうの、こういうのが永遠に観たいんだよわかる。

当時の薮くんは19歳で「シアタークリエ公演の最年少座長」と話題になり、きっと不安なこともたくさんあったと思うがそんな様子は一切見せない堂々とした主演っぷりで素晴らしかった。歌も上手いし。そう、今も昔も薮宏太は歌が上手い。

でも私の視線を誰よりも独り占めしたのは、アマリアを演じる神田沙也加さんだった。
沙也加ちゃんのアマリアはピンクのお衣装が似合うとってもチャーミングな女の子で、笑って泣いて怒ってと表情豊かな良い意味での「お騒がせガール」だった。
別件だけどここ数日タイムラインにちらほらと流れてきた「キューティーブロンド」の感想を読んで、やっぱり沙也加ちゃんってパワフルでかわいい「お騒がせガール」の役柄がすごくハマるんだね。残念ながら私はキューティーブロンドを観に行けなかったけど、今更ながら観たかったなという感情に突き動かされている。

舞台上の沙也加ちゃんは、「親しみやすいお姫様」だと感じた。女子校のクラスの中心にいるような明るさがあって、気負うことなくお喋りができる雰囲気で、それでいて女の子が憧れる「かわいい」をぎゅっと詰め込んだ誰よりもキュートなお姫様。でもただ守られてるか弱いお姫様じゃなくて、ピンクのヒールを履いてみんなの先頭を駆け抜けていくようなパワフルさを兼ね備えているのも魅力的だった。

そんな沙也加ちゃんに魅力された私は家に帰ってもずっとSHE LOVES MEの楽曲を歌い、お願いだからもう1回観たい!と母に頼んで二度目の観劇をした。一般でまだチケットが少しだけ残っていたのだ。クリエのチケットなんて社会人になった今でも高いと思うのに、娘の経験のためにぽんと出してくれた母上には感謝の一言に尽きる。

2回目の座席は初回よりも後方で上手側だったのを覚えている。それでも目に飛び込んでくるキラキラは変わらなくて、カーテンコールでは夢中になって拍手をした。WキャストだったA.B.Cのメンバーも、幸運なことにこの観劇でどちらのパターンも観ることができた。

舞台の上で輝く沙也加ちゃんはやっぱりお姫様で、エネルギッシュでパワフルで、とってもチャーミングだった。
沙也加ちゃんの歌うナンバーでとくにお気に入りは2幕の「バニラアイスクリーム」。風邪を引いたアマリアにジョージがお見舞いに行ってアイスクリームを差し入れる場面の曲。恋の始まりを歌うこの楽曲は明るくてかわいいだけではなく、調の記憶が正しければ最高音がhihiBまである難しいナンバーだった。それを茶目っ気たっぷりに、チャーミングに歌い上げる沙也加ちゃんに心を奪われたのを覚えている。
「私この店のアイスクリーム大好き、ママが働いてるのよ!」「えっあれ君のお母さんだったの?まるでアイドルみたいだったよ!」なんて中の人(中の人?)ネタも飛び出す楽しい場面だった。

このアイスクリームの差し入れをきっかけに(ジョージってけっこう優しいかも……)と犬猿の仲だった2人が近付いていき、ジョージも(アマリアが好きなのってもしかして…!?)と勘付いて「SHE LOVES ME」のタイトル回収に繋がる。そんな恋心の芽生えと、胸の中に仕舞っておけないわくわく感がたっぷり詰まった「バニラアイスクリーム」というナンバーが大好きだ。今でもバニラアイスを食べる度に歌いたくなる。

SHE LOVES MEの公演が千秋楽を迎えても、夢のような時間から抜け出せずに沙也加ちゃんのブログを日々チェックしていた。
きっと思い当たる節がある人も多いはずだが、きっと沙也加ちゃんの演じた役を誰よりも愛しているのは彼女自身だと思う。私の「SHE LOVES MEの公演は幕を下りたのに私はまだこんなにアマリアのことが好きでいいのかな……」という良くも悪くも前に進めない感情が、沙也加ちゃん自身が綴ったSHE LOVES MEへの想い、アマリア・バラッシュへの愛、演じた喜び等が溢れる文章によって消化かつ昇華できた。SHE LOVES MEに限らず、彼女が関わった作品はおそらくどれもそうだろう。ありったけの愛で本人が作品や役柄と向き合ってくれるからこそ、受け取り手が救われることもあるということを知る機会となった。

中学生の私が沙也加ちゃんを応援する気持ちは、誰にも見られたくない大切な宝箱をそっと覗くような感覚だったと思う。当時の私は「どうせ私はかわいくなれないし……」と自分のルックスに対して後ろ向きな感情があったけれど、「そんな私も憧れるだけなら自由だよね」とひっそり夢見る存在が神田沙也加だった。そのかわいらしさが心の拠り所だったし、彼女が作り上げた「お姫様」はたしかに1人の少女を救ったのだ。SHE LOVES MEのファンとしても、思春期真っ只中の少女としても、私は沙也加ちゃんに救われた。とにかく彼女の歌声が聴きたくて、観劇後にSAYAKA名義のCDを集めたのも思い出深い。


それから私にとっての沙也加ちゃんは「名前を見掛けるだけで嬉しくなる存在」だった。すくすくとオタクとして成長し良いかんじに守備範囲を広げアニメや2.5次元系にもどっぷりハマった私は、そこでも沙也加ちゃんの名前を度々見掛けた。とくに二次元コンテンツでは、ミュージカル本業の方がここまで真摯に寄り添ってくれている、という姿に喜びを感じたのはきっと私だけではないだろう。
観に行くことができなかったミュージカルも、へぇ~沙也加ちゃん今こんなことしてるんだ、と彼女が活躍の幅を広げているのを知るだけでもわくわくした。ジャニオタ業としても堂本光一くん主演舞台「Endless SHOCK」のリカ役を務めたりと、SHE LOVES MEに続いてのジャニーズ勢との共演が嬉しかった。アナ雪への抜擢は、元々売れっ子だけどさらに国民的存在へとなった沙也加ちゃんの姿が一ファンとしてどこか誇らしかった。ドラマで城田優くんと共演し、いやもう画面が帝劇じゃん!とはしゃぎながら毎週テレビの前で楽しみにしていたこともあった。1789を観劇して、覚悟を決めたような凛とした立ち姿にハッとしたのも覚えている。

ここ近年では私が個人的に宝塚歌劇団にハマり、宝塚OGとの共演者の中に並ぶ「神田沙也加」の文字をたくさん見つけることができた。それこそ今回のWキャストのまぁ様こと朝夏まなとさんは私も大好きだ。やっぱりこうして振り返ると、「何かと縁がある」という存在が私にとっての沙也加ちゃんだったと思う。


そんな当たり前に手の届くところに居続けてくれた沙也加ちゃんの悲しすぎる知らせは、正直まだ頭も心も理解できていない。よくわからない、という感情が1番近いと思う。考えても仕方ないことをぐるぐると考え続けてしまい、油断すると涙が出そうになるのを堪えて何とか人間の形を保っているのは私だけではなくてきっと大勢の方がそうだろう。

昨日、沙也加ちゃんのことを考えながら布団に入ると夢を見た。私がなぜかミュージカルに出れるくらいに歌が上手くなっていて、自分自身も周りの人も驚いている。突然手に入った歌唱力を武器に楽曲を歌いこなし、歌うことって本当に楽しいな!!と強く実感した夢だった。
沙也加ちゃんがどんな想いで人生を過ごしたかはわからないし、私が考えたって永遠に答えは出ない。でも朝起きて、歌を歌うことはこんなにも楽しいのだから、そんな「歌」と共に在り続けた彼女の人生はきっと幸せと隣り合わせだったんじゃないかなと感じた。というよりも、そう思うことにした。
かなり乱暴な手段だし本当のところはわからないけれど、ひとまず心の応急処置としてそう思い込まないと悲しみで押し潰されそうになるからだ。

音楽を愛し、役を愛した神田沙也加は幸せだった。そう信じて、願って、祈ろう、というのが今の私の想いだ。

これからも神田沙也加という存在が全ての人に、とりわけお姫様に憧れることも忘れかけた少女たちの味方で在り続けることを心から願う。


今の私はもう少女ではないし、わかっていたけどやっぱりお姫様にはなれなかった。アマリアの髪型のウェーブは実はカールじゃなくてストレートアイロンで作ってるんですよ、とブログで紹介してくれたその綺麗なミルクティー色のロングヘアに憧れたのに、なんだかんだ後ろを刈り上げているくらいに髪も短い。
でも堅苦しい社風の中で金髪で出社したりと「お騒がせガール」にはちょっとだけなれたかな、と思う。ちなみに偉い人たちにちゃんと許可をもらって金髪にした。そうやって沙也加ちゃんの演じた役は、これからもきっとほんの少し私の背中を押してくれるはずだ。

沙也加ちゃん、あれからたくさんミュージカルを観たけど、やっぱり「1番好きな作品は?」と聞かれたら今でも「SHE LOVES ME」と即答してるよ。いつかブロードウェイ版のSHE LOVES MEも観に行きたいな。ずっとずっとわくわくできる作品と出会わせてくれて本当にありがとう。


サブスクを漁っていると沙也加ちゃんがカバーしたボカロ曲の中に、ボカロに疎い私が唯一と言っていいくらい知っているかつ好きな楽曲があることに気付いた。

地球最後の告白を

地球最後の告白を

  • 神田沙也加
  • J-Pop
  • ¥255

最後にこんな残酷な言葉で締めることを許してほしい。

この曲の歌詞のように、どうかどうか貴方が「幸せな灰」になれたことを願います。ずっと忘れません。大好きです。



おわり